19歳女の話

追い詰められた瞬間を書きとめていくので見てください、20歳になりました

セレナーデ

セレナーデドイツ語Serenade(南ドイツ・オーストリアではセレナーデ、北ドイツではゼレナーデ))は、音楽のジャンルの1つであるが、一般的な言葉としては、恋人や女性を称えるために演奏される楽曲、あるいはそのような情景のことを指して使う。

 

__

昔から好きだよと言ってくれたけど好きとかそういうのがわからなくて、周りの友達から聞く「女ってメンドクセ」ってヤツが心に焼き付いてたし、なんとなくそういうのはイイやって思ってて(部活の方が楽しかったし)、もちろん嫌いじゃなかったんだけどそれをそのまま彼女に伝えたらじゃあ好きになってもらえるよに頑張るねって笑ってた。これでいいのかなぁって思ったけど、ものすごい眩しい西日へ帰っていくみたいにじゃあまた明日ねって手を振られて、真っ黒なシルエットへ眩しいなぁって思いながら、手を振り返した。

それからずっとずっと経っても相変わらず遊んでたりして、髪型とか、公園で駆けずり回ってたのが車に変わって、甘いジュースから甘いチューハイに変わったくらいだって。ある日ぼくの隣で彼女が取り出したのはタバコで、びっくりしてたらまだ吸ったことない?って聞いてきた。ないよ、なんで吸ってるの?って逆に聞き返したらバイトの先輩から勧められてだよ、って言ってた。なんだかぼくの頭の中にはどこかで見た彼女のバイト先の忘年会とかいう写真とか仲がいいんだって駅でばったりあった時に紹介された二個上とかいう先輩の顔とかもやがかかった幼い時の彼女の顔とか彼女の母親の顔とかがキレイに順番に並んでバラバラにビュン!って弾けたと思ったら万華鏡みたいにぐるぐるぐるぐるその顔や顔と顔が折り重なって回って回ってどんどん一つになって、匂い苦手だった?ごめんねと呟く今の彼女に帰結した。気持ち悪いなって思った。分かってはいたけれど彼女には彼女の世界があって交友関係があってぼくの知らないところへ行ったり見たり聞いたりしていたという事実がなんだかとても気持ち悪かった。「まだ処女なの?」と口をついて出た疑問にしまったと思う前に「あはは、違うよ」「この前別れた先輩だよー。なんか影響受けてるみたいで恥ずかしいねタバコも。やめよっかな」何も変わってなかったはずの笑顔が汚染されてる気がして血の巡りがとても早くて絶叫してゲロを吐いてしまいたかった。ぼくのことが好きって言ってたじゃないかよ、彼女の美しい顔を借りて朝のさえずりのような声を借りて喋るな悪魔め魔女め女狐め、「そうなんだ、今日もう遅いから家まで送るよ、あ、うち禁煙車だから」月は頂点を超えて傾き出している。その夜はなかなか寝付けなくて、やけにデカくて目だけははっきり見える男が腰を90度に曲げて水平にぼくの顔をにゅっと覗き込みながら話しかけてくるからだ。「非処女だったな、お前の意気地が無いからだ信用してたなんて嘘吐くなよ散々ビビって逃げてきたツケだよ皮被り童貞野郎が」「どいつもこいつも平気な顔してセックスして喜んでる男がいるんだよ」「蚊帳の外蚊帳の外お前だけは知らない楽園!自分の要求に恥ずかしがりながら頷いてなんでもしてくれる天使たち!お前の前でだけ人の皮を被って世界を作ってやってるんだ」ふと、男の後ろに目を向けると真っ黒のシルエットで人の形のようなものの下に苦しそうな顔をした彼女がいる。ちょっと汗ばんでて、顔が赤くて、ひっくり返ったカエルみたいな間抜けな格好して、あっあっと小刻みな声が聞こえて、ぬるぬるって耳元で聞こえそうなベロの動きから目が離せなかった。男はいつのまにかいなくてでもぼくは動けなくて、見たことない嬉しそうな切ないような苦しいような顔してすきだよってよくわからない物体に言ってて違うだろって、でもそれも声が出なくて動きが止まって荒い息遣いが首筋にまとわりついてる、は、と自分の体に目を向けたらぼくの頭くらいの大きさの蜘蛛が胸に張り付いて何個もついた目玉でギョロギョロこちらを見ながら口を開けて、毛の生えた足をかさかさ動かし、ぼくは叫んだ。朝になっていた。やけにデカい男も真っ黒な何かも蜘蛛も彼女もいなかった。

 

__

コンビニで買ってきた線香花火にベランダで火をつけて、30秒くらい火花だけの世界になる。蝉の声もはしゃぐこどもの声もない、火花が弾ける音だけがする。隣にいる子の息遣いすらも、いなくなる。

ボト、と火種が落ちて「切ないね」と声を聞いた時、落ちた火種を中心にふんわりと、柔らかくまた世界が始まってくる。「いつか父親を探したいんだ、何かしたいわけじゃないけど、どんな人間か見てみたいから」「君は、そう思ったことはないの?」だんだん車の通る音とか、目が慣れてきて彼女の輪郭がはっきりとしてくる。僕の問いは返されることなく、彼女は次の線香花火を取り出して火をつけ、また火花だけの世界を作り出した。「ないよ。お母さんと君がいればそれでいいもの、あとのことは、興味ないな」いい終わりと同時にボト、と火種が落ちた。「戻ろ、暑いし、蚊に刺されちゃう方が一大事だよ」とズボンをはたいて立ち上がる彼女の髪から火薬の匂いがして、見えないふりをしてた花火に照らされた時の悲しげな顔があのオレンジの光とともに焼き付いて、ずっと一緒にいようと思った。

 

__

 

渚のアデリーヌ - YouTube

 

走馬灯を見るとき、私はこの音楽が流れるだろうと中学生の時掃除しながら思った